玉座Ⅰ


俺は一人、北条の海岸で玉座に座っていた
深く腰を掛けて自由にひざを組みながらロングホープを吸っている
たまに買うときがあるのだ
一年に二回くらいロングホープを。
砂浜でひきこもっていたら海から玉座が流れてきて元気でてきた
こういう、人生には本当にたまに奇跡みたいなことがおこるよね
たぶん
古いのモンゴルの王のものではないか
違うだろうけれど
苗字は馬野です、と三上寛さんに言ったときに
じゃあ先祖はモンゴルの流れかも知れんなと言われたことを気に入っているのだ
十二月のしずかな鳥取の海-


俺はその椅子をどこにでも持って出掛ける
いちょう並木の中央の恋人たちのてとての間
アルタ前ハチ公前
西口から東口へ
或いはアマゾンの密林
東証の株価が変動する掲示板のあるすぐ真下
月面クレーター
他銀河
どこでも運よく玉座に座る
脚が一つ折れているので堂々と威厳を持って座るには難儀だが
それでも座るということは落ち着く
そして煙草を吸って、透明人間になれるのだからなお落ち着く
じきに酸素がマリファナのようにもなる
シンナーのようにも阿片のようにもなるが扱いには気をつけなければならぬ
俺はどこでも輪の中心にいるようであったし
まったく疎外されているようでもあったかも知れない


つづく