ベンズへ

葛西から度々
電話がかかってくる
夜中の二時とかに
無論、俺は
家では携帯をほっぽり投げているので
気づかないか
気づいても
出ない




葛西とは古い
10年以上前、俺が東中野に住んでいた頃
俺の家をねぐらとしていたなかの一人だ
青森出身で
サックス吹きで
つぶらな一重まぶたで
人に対し、面と向かってNOと言えないような
あぶっなかしいやさしさを持っている
のちのち、葛西が加入していたバンドは
葛西が抜けてから一時インディーズのチャートを賑わせたが
数年後、葛西は下北沢で路上生活者となっていた
駅前の路上で兎と暮らしていたが
Saxを盗まれ


悪化した




だいたい俺は
葛西の着信が入ってから
一週間か二週間あとに電話をかける
今の俺には
電話をかける行為にも
態勢を整えることが必要だ




みきー
金ない
外で缶チューハイでいいからおごってくれ
と電話の向うで話す
2級から3級に落ちて月収が二万減って二万はでかい
押入れの同居人がお金を返してくれない
と、いうことを電話の向うで嘆く
もちろん俺にも余裕があるわけがない
余裕がないもの同士が助け合おうとしている
これは現代社会の一つの確実な姿だ
酒をおごる余裕ではなく
葛西に会いにいく交通費が
俺の一ヶ月の小遣いの予定を狂わせる




デイケアで卓球の点をつける係りをしていたら
A-SMOGから電話がかかってきて



このように
ろくな奴から電話がかかってこない









僕が優勝した
ベンズカフェの
ゲストで出てくださいというので
5万なり10万なり積んでくれと言って断ったが


数日後、
1万円出します
というので
やることにした



弱いな


俺は


一万円で動く山の如し




さんきゅー



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以下は、読まず。



誰かがコーヒーを頼んだから
あるいはハイネケンを頼んだから
店員さんが働くだろう
蛇口はひねられるだろう
一万円いらないから
すべて止めろ
すべての作業を中止しろ
ウエイターは動くな
客は飲むな
頭のおかしい人が、詩の朗読している姿を
尊重したまえ