フェティッシュパーティー

先日、ネットで知り合ったおっさんとフェティッシュパーティーに行った
入場する為のドレスコードが厳しいというので色々考えたがとにかく高価な服は買えないし
俺は女のファッションに興味があっても男のファッションにはまるで興味がなかった
女性のレザーやラバー、ラテックスは美しいと思うが
男のは気持ち悪いと思っていた
なるべく金をかけずに
フェティッシュでありながら
初心者の基本をいきなり飛び越え、いかに何も考えてない顔をしながら他の男を出し抜くか
まず、イベント会社で働いている友人から着ぐるみを借りることが出来た
バックスバニー似の青い兎だ
着ぐるみはTPOの軸をいじくればいかようにも表現が変化するだろう
動物は強いぜ


それから100円SHOPで買ったおもちゃの日本刀を三本ずつ両脇に挿し
着ぐるみのサイズに合う眼帯を手縫いで作り
鏡の前に立ち
片目を腹を繰り抜いてスプリングを取り付け、目ん玉と臓器が飛び出るようにしたかったが諦め
古着屋で買ったプールバッグ満たんにスーパーボールを詰め
それを鏡の前で振り回してみた




何かがものたらない




プールバックを振り回す代わりに松葉ずえを振り回せばいいのか
いや、本当にそうだろうか
俺は媚びているのか?
しかしこれ以上の現実味を帯びたアイディアは何も浮かばなかった
俺はメールでAさんに、着ぐるみを着ていくことを伝えた
Aさんからは空返事が来たが俺は少し不安だった
ドレスコードに引っ掛かりエントランスで帰されるということだけは断じて避けなければならない



着ぐるみは持ち運ぶには大きすぎたし
着たまま電車に乗るには目立ちすぎる
俺はAさんにもう一度メールで相談をすると車に同乗させてくれるという!
タクシーを使えば俺の月の小遣いの5割はぶっ飛んだだろう
A氏に感謝!



当日Aさんは、ラバーのチョッキと短パンで葉巻をくわえ「みきくん、よろしくね」と言った
俺も挨拶をし、助手席に乗りこみシートベルトをしめた
後部座席にはガスマスクとプロレス雑誌とチョコレートが転がっていた
俺はガスマスクの横にバックスバニーを置いた
俺たちは初対面の変態だった



FMを聞きながら俺たちは東京を南下する
俺がAさんに質問をする、ということだけが会話の突破口になった
東京タワーが見えた時、東京の最先端とは一体何なのだろうかと考えた



地下駐車場で俺はバックスバニーに着替えた
おもちゃの日本刀を腰に固定している時Aさんは俺を見て笑った
俺はクラブでうろつくなら蛍光塗料をファッションの一つに使ってもいいなとその時思った


チョッキ、短パンの禿げたおっさんと
日章旗のはちまきをしめたバックスバニーが路地を歩いている
俺は自分を客観視しし、この風景は異様だと思った
だが駐車場からクラブまでの数百メートルの道のりにおいて、俺たちはそう人目をひくこともなかった
OLやサラリマーマンは、俺たちとは関係無く酔っぱらい、俺たちとは関係無く歩き、何事もなかったのように不倫をするのだろう



Aさんはベテランであり常連であったし、俺はそのことについて薄々感じていた
もしかして俺もその勢いでドレスコードをパスしたのかも知れない
ドレスコードは敷居であり、文化だ
それは金儲けや目先の利益以上の確かな人間の欲求があるからこそ、敷くことのの出来る制度だ


俺たちはエレベーターに乗りB1で降りた
会場近辺やエントランスにそれらしい人がいなくて少し不安だったが
それほど広くない夜の会場はごった返していた
俺は心臓に高鳴る感動の音をおぼえた
いまからチェーンソーで皆を殺そうかという思考が沸いた
俺の知らない知り合いが知り合いと話している
俺はAさんとカウンターに行った
Aさんは俺に一杯おごり消えた
それは俺にとっても都合がいい
歴史家の相手はつかれる
俺はジンとビールとジンを飲み踊った
冷たいものと熱いものを交互に繰り返すのだ
どこかの取材が来ていて誰かが誰かの写真を撮った
セクシーな女たち
日常生活では考えられないようなほどケツを露出している二人組
俺はケツの後ろで踊った
着ぐるみは熱かったが俺もハイになっている
何も考えずに手足を動かし腰をふる
カメラマンは俺の写真を撮った
まだ正式なスタート時間になってないらしく誰も踊っていなかった
俺は二人組みの女性にムーンウォークで近づき共に飲んだ
着ぐるみを着ていれば俺でも可愛く見えた
それから、彼女たちが1DKの部屋で何を感じている
深夜のテレビはおもしろいか
父親は傲慢だったか
女たちの甘えの歴史について
彼女たちの月曜の朝と彼女たちがみる夢
いかに彼女たちが現実に騙されたか
そして騙してきたか
思考がオートメーションで脳を駆け巡る
俺は下心を持ってこのパーティーに望んだが俺は俺の思考によっていつも打ち消された
えろい服の女が好きだ
ミラーボールがケツの毛穴を照らした
産毛がわずかに光った
それから俺はDJに関係無く踊った
酔って動くと頭がまわるが
フェティッシュだから吐くのはまずいだろうと思った
フェティッシュとは動物性をいかにギリギリのラインで制御でするかということである
フェティッシュとは、本能と理性の戦いを他人に見せつけることである


SMショーがはじまる頃
俺はバックスバニーの頭を投げすて
駐車場で吐いた
それから携帯電話のあ行から順に電話をかけた。