葛西がくる

丸を保育園に送り家でブラウザ銀河大戦をしていたら
葛西から電話があり
2日休みをとったので遊ぼうミキんちどこだっけ?というので
葛西なりに葛西は仕事をしているつもりなんだと思った
葛西との仲はもう十五年以上になる
新宿のガード下で俺が歌っていた頃、
当時、夜の新宿に行けば必ず知った顔がいて飲んで遊んだ
そういう時代に葛西と知り合った
葛西はサックスを吹き、
いっとき新宿の家出人預り所のようになっていた東中野の俺の部屋に住みボヤ騒ぎを起こし
かつてはインディーズシーンでちょっとは名の知れたバンドに在籍していたこともあったが
その後下北沢の路上で暮らしているという噂を聞いたりした
今は統合失調症を病んでいるが会話もだいぶ通じるし一時期よりはかなりよくなった
昼間は時給50円だか70円だかの作業所で働き、夜はBARでサクラをやっている
偽の客を装い繁盛しているように見せる仕事らしい
その仕事に給料はないがただで酒を飲んでもいいのだという
がっつり飲めるなあ、と俺がいったら流石に遠慮して二、三杯で粘るらしい



葛西から再び電話があり駅についたというので、俺はベランダから葛西が来るのをみていた
葛西は横断歩道をわたらずタクシーにクラクションを鳴らされていた
かごを持っていてので「ああ、兎もってきたな」と思った
俺はブラウザ銀河大戦をログアウトするまえの後始末をしていた
俺は連合の副代表であるので、メンバーにメールを送ったり色々と雑務がある
葛西は俺にくっつくように画面を見ていた
トラベラーみたいだなあ、と言った
スペースファンタジー系のテーブルトークらしい
俺は男とくっつくのがとてもいやなので
俺から葛西を引き離そうとしたが、洗濯物を干してもいる時もたこ焼きをチンしている時も
1Kの狭い部屋の中で葛西は俺から離れてはいけないという使命でもあるかのように俺をマーキングした
葛西が「落ち着かない」というし俺も若干キレ気味だったので石神井公園に行くことにした
葛西が「今日は出すから」(お金を)と言った
月はじめでお金を持っているのだろう
コンビニでチューハイとハイボールを買い、二人で池を眺めながらBARの客にフェラチオしてもらったという話を聞いた
一缶を飲み干したところで、俺はぬるい酒が嫌いなので、葛西を公園南にある売店に誘った
ここは隠れた穴場で、公園の売店のくせに畳の座敷があったり風流でサイコーなのだ
葛西は変化を嫌ったが、着いたら「ここいいわー!」と、満足しているようだった
俺たちは酒を飲みながらRPGやファンタジーファミコン限定のしりとりをした
葛西の頭がまわらないので葛西だけは音楽もありにしたが
そのうち葛西は何でも有りになった
葛西がしりとりをしながらハアハアと苦しそうなので「もうやめるか?」と言ったら「まだやりたい」と言った
葛西の子供は今頃12歳になっているという
どこにいるのか知らない
葛西は会ったこともない
俺がネットで調べてやろうか、と言ったが自分でつけた子どもの名前の漢字さえおぼつかない
その頃発症し、入院させられたという
俺はいまの葛西と葛西の家族が会ったほうがいいのか悩んだが、一応葛西の嫁さんと子どものデータを携帯にメモした
売店のおばさんが時々兎を見にきた


ふたりとも酔っ払ったし葛西が金を出さなくなったのでうちに帰った
ファミコンで対決しようということになり、テックランドヤマダ電器に寄り700円のUSBゲームパッドを買った
ファミスタをして10-0六回コールドで俺が勝った
葛西は途中でおもしろくないと言った
保育園の迎えまで俺は一時間寝て、葛西はウィザードリィをしていた
目覚ましで俺が起きた時、葛西は「結構強くなったよ!」ととても興奮していた
毎日ミキのうちに来たい、とか言い出したので遠まわしになだめた
俺たちは環八から環七へ自転車を漕いだ
葛西は明日も休みなのでどこかで野宿すると言った
俺は東京スカイツリーはどうだ?と言った
葛西は今日は充実した一日だと言った。