推敲中 ジョン


さっきから俺のパソコンの廻りを犬がうろついているので戸惑っている
一体どこの犬なんだろう?
別段これといってやかましく吠えるわけでもないし
俺の仕事の邪魔をするわけではないのだが
やはり身も知らぬ犬が部屋のなかをうろうろしているというのは多少とも気になる
時々後ろから、キータッチする俺のことをじっと見ているような気がして
振り返ってもみるのだが、
そうするとまた、まるで俺に興味なんかナイ素振りをして
辺りをうろうろと歩き始める例の行動を続ける
何なのだろう、一体??
犬のくせに首輪に鈴なんかつけて、ますますおかしい
運命のいたずらなのか?
とりあえず仕事をすすめる。


夕刻、中学の時のクラスメイトの香田から電話がある
鳥大の医学部を中退して、忍者学校に通っている変り種だ
こっちに帰ってきているという
駅前の「モスクワ」という喫茶店で待ち合わせした
っつーか、んな喫茶店あったっけ?
とりあえず駅前まで自転車を漕いでいって交番で聞いてみる
そんな喫茶店はないという
一体なんなのだろう?
っつーか香田って誰だよ?
だがこういう事は人生においてたまに起きる
ペットショップでジョンの餌を買って帰る。


ジョンは、相変わらず俺とパソコンの廻りを例の調子でうろうろとしている
最初は知らない犬がオレの部屋にいて少し変な感じもしたが
今となってはお互いにお互いの存在を必要としている良きパートナーだ
この一見不可思議で1度さえ私と目を合わせないようにつとめている (少なくとも私にはそう思える)犬も、
俺以外の家族や友人にはまったくなつく様子が見えないから
少なくともこの主人のことを嫌っているわけではないんだと思う
しかし、俺が見つめた途端に急にソッポを向いて
知らん顔をして歩き出すのは、一体どういう了見なんだろう?
餌をやっても俺が見てる時には決して食べない
俺があきらめてパソコンをつつきはじめると、ようやく餌を食べ始めるという始末である
何とかジョンの気を引こうと思い、ゴムボールや犬の遊ぶ玩具などを買い与えてはみるが、
いっこうに興味を示す態度が見えない
時にはそういう主人のことを憐れに思うのか
ほんの気持ち程度にボールを転がしてみたり、追いかけてみたりもするが
まったくやる気のなさそうな本人を見て、私の方が切なくなってくる状態なのである
今、ジョンは私の傍で眠っている。


夜、久々にセックスをした
居酒屋でナンパした美容学校の学生だ
6回もヤっちって、ああ恥ずかし・・・
河北中の4つ下だという
すっきりにこにこした顔で翌朝家に帰ると ディスプレイの前でうなだれているジョンがいた
呼吸が荒い
「何しとっだいおまエ!!!」
急いで動物病院に電話したが全部が休みだという
んなアホなっ!
倉吉市のでなく、鳥取県の電話帳で探す
でも全部が休みだという
信じられない!
けれど電話してる途中で 何となくこんな予感はしていた
仕方ない、島根に行こう
きっと鳥取県では今日、動物病院組合の慰安旅行か何かがあって仕方ないリアルなのだ
タクシーを呼ぶ
ジョンがタクシーに乗るのをいやがる
「お客さーん、そんな汚い犬乗せるのはよして下さいよー」
運転手をにらむ
運転手は、とてもなつかしい友人であった
前世でオレは奴の英語の教師をしていたのだ
そのことを告げるが憶えてないという
当たり前か、、
話題が古すぎた。

ジョンの呼吸はいっそうに荒くなり、顎から湯水のようにしたたる涎で
アスファルトの地面にはちょっとした小さな海が出来た
近所の人たちが家から出てきて、何かごにょごにょ話しをしている
「はい、すぐ終わりますんで。はい、すんませんどうも」
近所の人たちは適当に作り笑いを浮かべ「こんにちはー」「いい天気ですねー」と、やっている
それから一人の着飾ったおばさんが俺の呼んだタクシーに乗ってどこかへ行ってしまう
ジョンはみるみる痩せ細っててき、 涎の海がボクとジョンを包み始める
初夏の陽射しが俺とジョンを照りつける−
涎の海が異臭を放ち、近所の人たちが警察を呼ぶとかどうのこうのとか話すのが聞こえる


「ジョン、海だ!海水浴だよっ☆」


その場で俺は服を脱いで裸になり涎の海に飛びこむ
ジョンもわんわん鳴いてボクのあとを追う
クロール☆バタフライ☆背泳ぎ☆ジョン、気持ちいいねぇ☆
ジョンも犬かきでボクについてくる。わんわん★
はじめてジョンが犬らしい馬鹿っぽい表情をする。嬉しい☆  
        


       ジョン、ボクラ二人シテ、ドコマデモユコウヨ。    
       ジョン、スキダヨ。ズットズット、ボクラワトモダチダヨネ☆



目覚めると俺は病院のベッドにいて
小窓の向こうからはやつれた母と金髪の弟がいた
母は俺を見て絶望している
弟が母の背中をさすっている
「もうアンタ、仕事なんかせんでえーから、せめて人様に迷惑かけずに生きていきっ、なっ」
母が涙声で話す
弟は俺と視線を合わそうとしない


「ジョ、ジョンは?」
弟に聞いてみる
聞こえないフリをしているのか、弟は喋ろうとしない


沈黙−


もう1度聞く
「ななぁ、ジョンは?」
「兄貴は母さんや周りのコトより、犬の方が大事なんかい!!」弟も泣いている
やがて二人は小窓から見えなくなり、どこかへ消えてしまった


ふと枕の脇に、赤い革製の鈴つきの首輪が見つけた


首輪を握り締めて俺はうずくまった
と同時に誰かがボクの肩をたたく
振り帰ると幽霊になってるジョンがいた
「死んじまったワン☆」
ジョンはそういってボクにウインクして消えてしまいました。

何となくちょっとは嬉しくなっちゃって、
宝石みたいに綺麗な涙がひとつぶボクの右目からポロリと落ちました。