六本木心中


横浜の赤レンガの倉庫街で行われた朗読会の帰りに
ふとタクシーのなかから六本木ヒルズを見ると
点いている電気が文字のかたちになっていて
認めてほしいと書いてあった
俺はヒルズになぜ認めて欲しいの?と聞いた
するとヒルズは俺はそんなこと思ってないよ
耐震性にも優れているし環境にもやさしいしお洒落で最先端で
兎に角何てったって価値があり巨大なんだから
誰もが俺を認めざるを得ないだろ
だから認めて欲しいなんてそんな子供じみた発想は俺にはないよ
東京ミッドタウンには
傷つきたくないと書いてあった
俺はミッドタウンに、なぜ傷つきたくないのかを尋ねた
するとミッドタウンは
私は傷つくことなど恐れていないわ
私は強いしだいいち洗練された魅力がある
誰もが私のところに来たがるし最新の設備とファションを私は持っている
何しろこれらには価値があると信じられているし高さだって相当なものなんだから
誰も私を見下すことは出来ない
私は傷つくことを恐れたりしないんじゃなくて、私には傷つく理由がないのよ


人間たちはそろそろ
自分たちによって追い詰められはじめている
つまり時代は変わるのだ。