抜粋

大人は忘れてしまっている
子どもでいるということが、どういうことなのか
おぼえている、といいはる人もいるけれど、
それはちがう。ほんとだよ
大人は何もかもわすれてしまったんだ
あのころ、世の中がどんなに大きく見えたか
いすによじのぼるのが、どんなにたいへんだったか
いつでも下から見あげるというのが、どんな気分か
わすれてしまった
思い出せないんだ
きみもいつか、わすれてしまうだろう
大人はよく
子どものころはよかった、という
それでまた子どもになることを、夢見たりもする
でも、ほんとに子どもだったころは、いったい何を夢見ていたんだろう
なんだと思う?
早く大人になりたい、そう思っていたんじゃないかな。



             コルネーリア・フンケ『どろぼうの神さま』