元旦の出来事

晦日に中野で連れと飲み
そのままブロードウェイで歌って年越しをして
飲み屋の客たちと新井薬師に参った
俺は一人の女の子をタクシーまで送り
みんなを追いかけるかたちとなった
新井薬師の入り口でちょっと狂人じみた男と目があって
お互い視線をずらさないので
彼も連れて飲み屋の人たちと一席に陣取った
彼は被害妄想に陥っていた
ヤク中なのか、わからない?
俺も酔っていた
彼の妄想をゆるめる為に理屈で説明しながら何度もキスをした
同席していた連れや女の子たちは半ばアキれていた
女の子たちはそのうちどこかへ踊りに行った
それから彼の家にタクシーで向かった
タクシー代は彼が出した
「お前ホモじゃないだろうな?」
『違うよ、お前があんまりにも怯えているからだよ』
彼は一軒屋に犬と住んでいた
彼の被害妄想は徐々に回復した
二階の部屋はスタジオになっていた
プロのバックミュージシャンだという
俺の歌にキーボードで彼が合わせる
「コード進行を教えてくれ」
『ああ』
このセッションはまるで出鱈目だった
俺のギターと歌はとても合わせにくいのだ
それからまた下に降りて飲んだ
今度はコーヒーを飲んだ
正午に別れた妻の子供と会うらしい
眠ったら?と言ったら
このまま起きていくと彼は言った
台所の皿を洗ってやろうとしたら「ギタリストは指を大事にしろ」と制止された
ギタリストと言われたのが、生まれてはじめてだったので感動した
お前は絶対に離婚するなよ、と彼は言った
なんで?と聞いたら、ミュージシャンだって年をとったらモテなくなるからだそうだ
なんじゃそりゃ
俺は犬に話しかけ
玄関の植木を二つ倒してしまって(彼は気にするなと言った)
二人で通りまで歩いた
朝っーか、
昼か
日光が体にしみた
お互い連絡を取り合おうと携帯番号のメモをもらったがそのままにしてある
帰って彼の名前で検索するとプロのミュージシャンとして活躍する彼の名前や写真がモニターに写し出された。