二部

4歳の息子と
台風の、豊玉中を歩く
息子は水たまりでバシャバシャと足踏みをするので
ズボンがずぶ濡れになっている
10分に一本は来るはずのバスがなかなか来ないので、俺は苛々していた
傘がすぐひっくり返り、役に立たない
俺はとにかく、早く家に帰りたいと思った


丸は、
そんなにズボンをびしょびしょにして
俺に怒られながら
一体、水たまりをバシャバシャ踏みまくるということは
どれだけ利益のあがる楽しいことなんだろうか
































小雪ハイボールを飲む夢をみた
小雪は痩せていて、前歯が一本なかった
小雪は俺に媚び、色目を使っているようだった
俺はこの女は何て卑しい身分の女なんだろうと思った
ただ、彼女の作るハイボールはとてもおいしかった

俺が
「お会計お願いします」と言ったら
小雪は「ウイスキーがお好きでしょ?」と言った
俺は、この女は本当に頭いかれているのだと思い
金を払わずに、走って逃げた
小雪の持つマドラーは空中のなにもないところを廻した
それは銀河を作る作業のようであった






白目をむいて

全力で走ると

風が目の中に入ってきて

気持ちいい



まばたきせよ

まばたきせよ、と

どこからか

声が聴こえる










電線が震えている

鉄塔から鉄塔へ

電気が伝わる




                                                                  • -


太陽は平等に熊谷市民を照らす。
あぶらぜみがセックスがしたいと鳴いている
夏の甲子園を目指す市営球場では
どこかのチームが負け
どこかのチームが勝ったが
勝ったチームも次の試合で負けた
そこに勝ったチームも次の次で負けたが
主将岩田は、
最初に負けたチームに一回戦で負けたチームのマネージャーであり
のちに、ミス彩の国に選ばれることになる名波はるかと結婚し
今では二児の父親となり幸せに暮らしているという
夏のラジオは、汗の匂がした
そして誰にも、録音できない。



                                                                  • -

カウンターのはじの男が
その木目の中に
人の顔のようなものを見つける
壁の染みのなかに、アラビア語で書かれた預言の断片を見つける
それはありふれている
彼は酔っ払いすぎているのだ
さあ
常連客は皆笑って、
水に流そう






森の中にわすれられた戦車に
雪が積もる
キャタピラの下では
だんご虫が
大地に詩を書いている


雪の結晶を
はじめて顕微鏡で見た人間は
どんな風に腰を抜かしただろうか
はじめて南極大陸にたどり着き
ペンギンの群れを見た人間は
船を引き返さなかっただろうか




夜の遊園地の
メリーゴーラウンドの木馬を外し
かわりに女の死体をはめこんで
スパゲッティーナポリタンを食いちらかしながら
回転する世界の美女を見ている


そういうことでしか
性的興奮を感じられない人間が
70億人いる人類の中に
確実に存在する























めずらしい


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岩田は
どこに
人生の幸福をみつけたか


俺は













時には、
誰彼という見境なく
死んだ人間を全員偲び
知らない奴の為に号泣する
酔っ払ったということを理由に
私たちの鍛えられた
この神殺しの
こそ泥の臭覚を持って。
オナニーがいつまでたっても
完成されないのだと
犯罪者のフェイスブック
地下街の恋と


例えばこの一杯のグラスに注がれたクラブソーダ
炭酸の数だけ銀河が
産まれては
消えた
世界で一番の俺の味方は俺だ
俺は俺と飲もう
今夜も俺は俺と寝よう
血が通って
目と鼻があり
とても温かじゃないか俺は。